6席のカウンターが、誰かの"帰る場所"になる
東京・錦糸町。わずか6席のこのカウンターで、バーテンダーとして立ち続けている岡本和也です。ブランデーをメインコンセプトに掲げる「Bar Hors d'age(バー オルダージュ)」を運営しております。
お酒が飲めなくても、ここに来る理由がある
「バーはお酒を飲む場所でしょ?」そう思われたあなたは、半分正解です。実はこのカウンターには、コーヒーだけを飲みに来る人がいます。炭酸水だけの人もいます。深夜にふらりと来て、ただ眠りに来る常連さえいます。お酒の有無は関係ない。ここは「人と人が繋がる大人の社交場」です。
手書きの伝票と、2年分のデータ。その両方を武器にする
バーでは、お会計の時にレシートは出てきません。代わりに出てくるのは、手書きの伝票。これも"おもてなし"のひとつです。古き良きバーの温もりを、お客さんが触れる表側にはしっかり残す。しかし、その裏側はまるで違います。
2年以上、毎日欠かさず売上・原価・客層のデータを記録し続けています。その結果——
6席という最小の店舗でありながら、グループ4店舗中、客単価No.1、利益率No.1。席数が多い他店舗の売上を超える月さえあります。
データを取り続ける理由は、自分の成績のためだけではありません。後輩たちの給料を上げるためです。飲食業界は給料が安い。それを「しょうがない」と諦めている人が多い。でも、利益をどれだけ上げているかを数字で証明できれば、オーナーへの交渉材料になる。
世界の"もったいない"を、あなたのグラスに届けたい
趣味の海外旅行は、あえてマイナーな地域を選びます。お酒の産地として有名でも、日本人がまず行かないような場所。現地の酒屋でミニチュアボトルを買い、飲んでみるのです。帰国して調べても、日本語の情報はほとんど出てきません。「こんなに美味しいのに、なんで誰も知らないんだろう」——この気持ちが、自分の原点だと思っています。
日本で流通しているお酒は、やっぱり大手会社のものが中心になっています。でもバーテンダーですら知らないお酒が、世界にはまだまだあります。だったら、その窓口をもっと広げたいなって思ったんです。
全部自分でやりたい——畑から、グラスまで
自分で蒸留酒を作りたい。カクテルのベースになるお酒を、自分の手で作りたい。もっと言うなら、素材から。畑から関わりたい。
最近、蒸留所をいくつか見学に行って気づいたことがあります。蒸留所が作りたいものと、お客さんが求めているものって、必ずしもイコールじゃない。でも、お客さんの声をダイレクトに毎日聞いているのはバーテンダーなんです。だからバーテンダーがお酒作りに関わることには、ちゃんと意味があるんじゃないかって。
寿司屋の息子がバーテンダーになった理由
実家は寿司屋。親父は寿司職人です。子どもの頃から飲食店が身近にあって、学生時代のアルバイトも自然と飲食を選んでいました。よく聞かれます。「お父さんが寿司屋なのに、なんで寿司屋にしなかったの?」って。理由はシンプルで、親父と同じジャンルで戦っても面白くないなって思ったんです。親父と同じ土俵では戦わない——それが、寿司屋の息子がバーテンダーになった理由です。
親父から受け継いだ、たった一つのこと
「ちゃんと誠心誠意、相手のことを思って接客したら、自分に帰ってくるから」——これだけは、淡々と守り続けてます。
深夜にコーヒーだけ飲みに来る人がいても、注文もせずに寝に来る人がいても、正直、別に嫌じゃないんですよね。売上とか単価とか、そりゃ大事です。でも、そこを前面に出した瞬間に、なんかお金のにおいがしちゃう気がして。社長さんが来ても、学生が来ても、自分はあくまで公平に、フラットに接したい。それを続けていたら、気づいたらうちの店、グループ4店舗の中で客単価も利益率も一番高くなっていました。
飲食業界の「しょうがない」が、ずっと引っかかっていた
飲食店って、給料が安いんです。みんなそれを分かっていて、でも「飲食なんてそんなもんだから」って諦めてる人が多い。ちゃんと利益を出してるのに、それが給料に反映されない。そもそも、自分たちがどれだけ利益を出しているのか、数字で把握できていない店がほとんどなんです。
だったら自分がまずやるしかないなと思って、毎日のデータを記録し始めました。スプレッドシートに毎日入力して、もう2年以上になります。自分のためだけじゃないです。後輩たちの給料を上げるための交渉材料が欲しかった。
「当たり前」を疑うのに、特別な才能はいらない
飲食店の売上管理が手書きノートなのは、当たり前。バーテンダーの給料が安いのは、当たり前。古い体質のオーナーには逆らえないのが、当たり前。でも本当にそうですか?
自分がやったことって、結局「本当にこれでいいんだっけ?」って思って、毎日データをスプレッドシートに入力し続けただけです。それだけで、グループ内で一番の数字が出た。後輩の給料交渉の材料もできた。お客さんへの提案の精度も上がった。
たぶん、イノベーターって「当たり前を疑って、それを放置しないで、やり続ける人」のことなんだろうなって。
📍 Bar Hors d'age(バー オルダージュ)
東京・錦糸町/店長:岡本 和也